11回国際協力塾セミナー

当日の様子

ジーエルエム・インスティチュート(GLMi)は、2014年5月25日(日)にJICA地球ひろばにて、第11回国際協力塾セミナー『ソーシャルビジネスってどれくらい「ソーシャル」なんだろう?~フィリピン小規模農民向け農機レンタル事業を事例とした検証~』を開催しました。

第11回国際協力塾合宿の概要

今回テーマは、フィリピンの「小規模農民を対象とした農業機械のマイクロ・レンタル事業(通称ARMLED)」を、社会的投資収益率(Social Return on Investment、以下SROI)という手法を用いて、検証することでした。ARMLEDの皆元理恵フィールド・マネージャー(FM)が講師となり、以下のスケジュールのもと、グループワークを中心としたセミナーになりました。

当日のプログラム

1時間目 ARMLEDとSROIに関する講義

2時間目 グループワーク

3時間目 グループ発表・講評

ARMLEDとSROIに関する講義の様子

まずは、ARMLEDの背景にある社会課題の説明を受けました。フィリピンでは、他の東南アジア諸国に比べて農業の機械化が進んでいない上に農村から都市部へ人口が流出し、食糧需要を賄うことが難しくなっています。さらに小規模農民は農業機械を利用したり、融資を受けることが難しいため、生産性を上げられず、収入が伸びません。こうした課題を解決するために、ARMLEDは稲作用の農業機械の貸し出しや低利ローンの提供など、様々な活動を行うことで小規模農民の稲作の生産性と、それに伴う生計向上を目指しています。参加者は、耕耘機や脱穀機が使われている様子や、農機オペレーター(操縦者)の研修風景などをビデオで見ながら、「どんな人たちが関わっているのか」、そして、「どんなインパクトがあるのか」などソーシャルビジネスのイメージを膨らませました。

ARMLEDの紹介の後、SROIの概要と分析手法の説明を受けました。SROIとは、事業の社会的インパクトをステークホルダー(関係者)ごとに整理し、長期的な間接効果(インパクト)を貨幣価値に換算し、事業がもたらす社会的利益を数値化する手法です。社会的な効果を算出する方法として、近年注目を集めています。

グループワークの様子

2限目は、グループでARMLEDの社会的(ソーシャル)インパクトの算出に挑戦しました。今回は「ARMLEDの脱穀機3台が老朽化している」という状況を想定し、①新しい脱穀機と買い替える(A案)と②新たにコンバインハーベスターを導入してビジネスの拡大を図る(B案)のどちらが社会的な利益が大きいかを検討しました。

まず、関係者ごとのインパクトを表す「インパクトマップ」という表の作成から開始しました。この演習では、「コンバインハーベスターを導入した場合(B案)に失われる雇用をどう評価するか」、が重要なポイントになっています。コンバインハーベスターを使うと収穫と脱穀をまとめて行うことができるため、これまで収穫作業に雇われていた労働者が働き口を失う可能性があります。また、脱穀機よりもオペレーターの人数が少なく済むため、ARMLEDで働いていたオペレーターが仕事を失うかもしれません。そういう社会的なマイナス面がある反面、ビジネスの拡大を目指すB案によって、より多くの小規模農民にサービスが提供されるというプラスの面が想定されます。

グループワークでは、ステークホルダーが受けるインパクトを正しく理解できているか、計算式に問題はないか等、活発な議論が行われました。電卓を何度も叩いて数字を確認する様子も見られ、参加者の熱心な様子が伝わりました。

グループ発表と講評

1時間のグループワークの後、グループごとにインパクトマップとA案、B案のどちらを選んだのかを発表してもらいました。

結果として、すべてのグループがほぼ同じインパクトマップを作成していました。しかしながら、選択した案と理由はグループごとに異なっていました。

A案を選んだ理由

  • 収穫作業に携わる労働者や、農機オペレーターも含めた全ステークホルダーの社会的利益の合計が大きい。

  • コンバインハーベスターは脱穀機に比べて維持管理が大変なので、インパクトマップに表れていないコストが大きい、など。

B案を選んだ理由

  • ビジネスとして持続的にサービスを提供するために、利益が大きい。

  • 米の生産性を上げるという目的の達成に適っている、など。

発表後は、皆元FMおよびARMLED担当である相馬真紀子理事が講評を述べました。皆元FMは、「コンバインハーベスターの維持管理費や、米の生産性向上という目的など、インパクトマップを評価する上での多様な視点を得ることができ、ARMLEDチームでの話し合いにも活かしていきたい」とコメントしました。また相馬理事は、「お金や時間、労力を多くかけられないNGOにとって、SROIは事業を評価する良いツールではないか」と話しました。

今回はこれまでの国際協力塾セミナーのグループワークと異なり、数字を扱う作業がありました。準備段階では、時間が足りるか心配していたのですが、蓋を開けてみると実際に計算することで理解が深まり、密度の濃い議論となったように思います。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。